測定環境と機材構成
スピーカー本来の出音と、部屋による反響(ルームアコースティック)が音質にどのような影響を与えるのかを検証すべく、音響測定ソフトのデファクトスタンダードである REW (Room EQ Wizard) を用いて自宅スピーカーの特性を測定しました。
今回はスピーカーから 約20cm という非常に近い距離にマイクを設置した「近接測定(ニアフィールド測定)」を実施しました。これにより、部屋の不要な反響音(床や壁からの一次反射)の影響を最小限に抑え、スピーカー本来の純粋な周波数特性や歪み率を浮き彫りにしています。
【オーディオ】無料のソフトREW:Room EQ Wizardでお手軽音響測定!
REWのセットアップ、各種測定項目(周波数特性、高調波歪、残響時間、ウォーターフォールなど)の測定手順やデータの読み解き方を論理的かつ丁寧に解説した入門動画です。データに基づくアプローチを体系的に学ぶのにおすすめのコンテンツです。
動画を視聴する (YouTube)SPL & Phase (音圧周波数特性・位相特性)
主要パラメータの意味
測定結果の分析
近接20cmの測定であるため、部屋の定在波による激しいディップ(音の打ち消し合い)が目立たず、スピーカー本来のレスポンスが非常にクリアに捉えられています。 100Hzから15kHzの間で非常にフラットなバランスを保っており、ONKYO特有の抜けが良く端正なサウンドキャラクターを裏付けています。 小型ブックシェルフ型であるため、70Hz以下は急激にロールオフ(低音減衰)していますが、これはエンクロージャーの物理的な容積限界を示す正常な挙動です。位相(Phase)の変化もクロスオーバー付近(およそ2.5kHz前後)で破綻なく滑らかに遷移しており、ユニット間の繋がりが良い設計であることが読み取れます。
Distortion (歪み率特性)
主要パラメータの意味
測定結果の分析
中高域(500Hz〜10kHz)においては、THDが1%以下(-40dB以下)にしっかりと抑えられており、非常にクリーンな音質性能を維持しています。 一方、ウーファーユニットが限界に達しやすい100Hz以下の重低音領域では、THDが急激に増加する傾向が見られます。これは、口径の小さなウーファーで低音の音圧を稼ぐために、振動板の振幅(ストローク)が非常に大きくなり、磁気回路やエッジの非線形性によって発生する物理現象です。 特筆すべき点として、不快感を与えやすい3次高調波(3rd Harmonic)よりも、比較的音楽的な2次高調波(2nd Harmonic)が支配的であるため、仕様以上のふくよかで聴き疲れしにくい低音感が得られています。
Filtered IR (帯域フィルターインパルス応答)
主要パラメータの意味
測定結果の分析
グラフでは、測定後およそ 0.58 ms 付近に極めて鋭く巨大な初期ピーク(Direct Sound)が観測されます。これは音速(約343m/s)でマイクまでの物理的距離20cmを伝わる時間に完全に一致しており、スピーカーから発せられた直接音がブレなくマイクに届いたことを示しています。 直接音の後、数ミリ秒間は余分な反射音の山がほとんどなく、スムーズにエネルギーが減衰しています。近距離測定の強みである「部屋の影響の排除」がこの時間軸レスポンスからもはっきりと証明されています。高域(4kHz、8kHz)の減衰は極めてスピーディーで立ち上がりが鋭く、低域(125Hz、250Hz)に向かうにつれて、スピーカーユニットの慣性とバスレフの共振により減衰カーブがゆるやかになっていく過渡特性が捉えられています。
RT60 (残響時間特性)
主要パラメータの意味
測定結果の分析
RT60は本来「スピーカーの性能」ではなく「部屋全体の響きの長さ(ルームアコースティック)」を表すパラメーターです。今回は20cmの近接測定であるため、グラフ初期のEDT(初期減衰時間)はスピーカー本体のダイレクトな無響応答に引きずられて0.15秒〜0.2秒以下と非常に高速に減衰しています。 一方で、T20やT30から計算されたより後期の残響時間は、部屋のサイズや吸音状態を反映して0.35秒〜0.45秒程度で安定しています。これは一般的な日本の居住空間(リビングや自室)における典型的な値であり、デッドすぎず適度に心地よい響き(ライブ感)があるリスニング環境であることを示唆しています。
Spectrogram (スペクトログラム)
主要パラメータの意味
測定結果の分析
スペクトログラムは、音圧と時間的な減衰を俯瞰して「共振(リンギング)」を発見するのに適した表現です。 発音開始の0ms位置から高域にかけて一気に深い青や黒へと綺麗に収束しており、ツイーター素材およびエンクロージャーの制振性能の高さを示しています。 逆に、低音域(特に100Hz以下)には縦方向に長く伸びる暖色系の「尾」が確認できます。これはスピーカー背面/前面のバスレフポートから放出されるエネルギーの遅れや、室内の壁面との往復で生まれる低域定在波の影響によるもので、物理的に避けがたい低音のエネルギー遅延が視覚的にクリアに捉えられています。
Waterfall (累積スペクトル減衰特性)
主要パラメータの意味
測定結果の分析
ウォーターフォール(累積スペクトル減衰)プロットを見ると、CR-U5Xスピーカー自体の優れた共振対策がよく理解できます。 中域から高域にかけては、手前(時間軸の経過)方向へ向かって急峻に波が減衰しており、非常にタイトで「スピード感のある音」であることを物語っています。もし振動板自体に分割振動などの致命的な共振があれば、中高音に醜いリッジ(尾根)が手前へ長く残りますが、本機にはそれがほとんど見られません。 一方、低域側のバスレフの設計帯域付近(80Hz〜100Hz前後)には緩やかに尾を引く構造が見られます。これはウーファーのコーン紙自体の動きというよりも、バスレフポート内で空気が共振することによる物理的な余韻であり、小型スピーカーで量感ある低音を表現するのに最適な設計が成されていることが3D空間上に描かれています。
測定結果のまとめ
自宅で手軽に行えるスピーカー測定ですが、UR22C や CRM1 といった確かな機材構成を選び、さらにマイクを 20cm という近接設置にすることで、プロ用測定スタジオに近い精度でスピーカーそのもののパフォーマンスを評価することができました。
ONKYO CR-U5X の実力を様々な角度から分析した今回の結果は、オーディオチューニングやEQの調整、将来のルームアコースティック対策に大いに役立つ貴重なデータとなりました。
抜群の近接測定効果
20cmという距離により、一般的な部屋の激しい音の打ち消し合い(ディップ)を排除し、スピーカー純粋の素直なフラット特性を確認。
巧みな低域のロールオフ設計
70Hz以下は急峻にカットされますが、100Hz前後のバスレフ共振をうまくコントロールし、量感を確保する設計思想を分析。
クリーンな過渡応答(Ringingなし)
ウォーターフォールやスペクトログラムで判明した中高域の高速な減衰。余分な付帯音のないハイスピードな解像感を確認。